残された女たち -次の超大国を形作る中国女性-
書籍情報
書籍名:Leftover in China: The Women Shaping the World's Next Superpower
著者:Roseann Lake
この書籍は、現代中国における「剰女(シェンニュー)」と呼ばれる高学歴・高収入の未婚女性たちの実態と、彼女たちが中国社会に与える影響について詳細に分析した作品です。
著者のRoseann Lakeは、北京のテレビ局で働いた経験を持つジャーナリストで、中国の若い女性たちと密接に関わりながら取材を重ねています。彼女は特に、ChristyやJune、Zhang Meiといった実在の女性たちの経験を通じて、現代中国における結婚と女性のキャリアの問題を浮き彫りにしています。
一人っ子政策がもたらした予期せぬ結果
1979年に始まった一人っ子政策は、中国社会に大きな影響を与えました。特筆すべきは、都市部の一人娘たちが、これまでにない教育機会と資源を与えられたことです。伝統的に男児を好む中国社会において、兄弟がいない彼女たちは、まるで息子のように育てられ、高い教育を受けることができました。
変わりゆく結婚観
本書で紹介される女性たちは、30代前後の高学歴・専門職の女性たちです。彼女たちは、親世代が経験した貧困と革命の時代とは異なり、経済発展と個人主義の台頭を経験しながら成長しました。その結果、結婚に対する価値観も大きく変化しています。
伝統的な中国社会では、結婚は個人の幸せよりも家族や社会の調和を重視する制度でした。しかし、現代の教育を受けた女性たちは、より個人的な充実や感情的なつながりを重視する傾向にあります。
経済発展と女性の社会進出
著者は、中国の経済発展における女性の役割の重要性を指摘しています。現在、中国のGDPの41%を女性が生み出しており、これは世界でも最も高い水準の一つです。特に、高学歴女性たちは、知識集約型経済への移行において重要な役割を果たしています。
社会的プレッシャーと個人の選択
しかし、キャリアを築いた女性たちは、「剰女」というレッテルを貼られ、結婚を急くよう社会的プレッシャーを受けています。本書に登場する女性たちは、親からの結婚プレッシャーと自身のキャリアの間で葛藤しながら、それぞれの方法で対処しています。
アジアの文脈における中国
著者は、日本、韓国、シンガポールなど、他のアジア諸国との比較も行っています。これらの国々では、高学歴女性の未婚化が既に進行しており、中国も同様の道をたどる可能性があります。しかし、中国特有の状況として、一人っ子政策による深刻な男女比の不均衡(男性が3000万人超過)があります。
将来への展望
著者は、中国が今後も経済発展を続けるためには、これらの高学歴女性たちの能力を最大限に活用する必要があると主張しています。伝統的な結婚観にとらわれすぎることは、貴重な人材を失うリスクがあります。
また、中国は発展途上国から先進国への移行期にあり、その経験は他の発展途上国にとって重要な参考例となる可能性があります。特に、女性の教育と社会進出が経済発展に与える影響について、貴重な示唆を提供しています。
本書は、単なる中国の結婚問題の分析にとどまらず、グローバル化する世界における女性の役割と、伝統と近代化の狭間で揺れる社会の姿を鮮やかに描き出しています。現代中国を理解する上で、重要な視点を提供する一冊と言えるでしょう。